妊娠期
妊娠初期
トキソプラズマ症は、妊娠中の女性が気に留めておきたい感染症の一つです。正しい知識があれば、それほど怖い病気ではありません。トキソプラズマ症の特徴や、おなかの赤ちゃんへの影響、予防策などを、産婦人科医・医学博士の竹内正人先生に聞きました。
「トキソプラズマ症」は、トキソプラズマという寄生虫がヒトの体内に入ることで感染をします。加熱不十分の豚や鶏、牛、鹿の肉や、猫の排せつ物にトキソプラズマは寄生している可能性があります。加熱不十分のこれらの肉を食べたり、猫の排せつ物に触れたりすることで発症することがあります。ただし、ヒトからヒトに感染することはありません。
トキソプラズマ症に感染しても、健康な人であれば8割の人は無症状だといわれています。症状が出ても、首のリンパの腫れや、発熱、筋肉痛、全身の倦怠感がある程度で、健康な成人であれば、重症化の心配はありません。
気を付けたいのは妊娠時のトキソプラズマ症の感染です。妊婦さんの多くは自覚症状がないため、妊娠初期の血液検査などで感染を知ることがあり、日頃から感染予防が必要でしょう。
妊婦さんが感染しても、本人が重症化することはほとんどありませんが、胎盤を通じておなかの赤ちゃんに感染し「先天性トキソプラズマ症」を発症することがあります。
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【保存版】妊婦さんが注意すべき感染症まとめ先天性トキソプラズマ症を発症した赤ちゃんは、目や脳、肝機能に障害が生じることがあります。また、重症化すると流産や死産を引き起こす場合もあります。
ただ、感染が分かった後に「スピラマイシン」という保険適用の薬を服用すれば、おなかの赤ちゃんへの感染を減らし、重症度を軽減できることが分かっています。
妊娠中に初めてトキソプラズマ症に感染した場合、胎盤を通じて赤ちゃんに母子感染する割合は約30%といわれています。ただし、赤ちゃんに感染しても、先天性トキソプラズマ症を必ず発症するわけではありません。赤ちゃんに症状が出る確率は約10~15%程度といわれています。
妊婦さん全体で先天性トキソプラズマ症に感染する人の割合は、0.13%程度です。そのうちの約10~15%が赤ちゃんに感染することを考えると、母子感染のリスクはそれほど高くないことが分かります。
母子感染を防ぐ治療薬もあるので過度に心配せず、日常生活で予防を心掛けていきましょう。
かかりつけの産婦人科で、トキソプラズマの抗体検査を受けることで感染の有無がわかります。感染が気になる妊婦さんは、主治医の先生に相談してみましょう。気になる症状がある場合は、保険適用で抗体検査が受けられます。
最近では、妊娠初期の血液検査でトキソプラズマ症の検査をする病院も増えてきました。すでに血液検査を受けている妊婦さんは、検査項目を確認してみましょう。
トキソプラズマの抗体には「IgG型」と「IgM型」があります。IgG型の抗体がある場合は、過去に感染していてすでに抗体ができていたということです。
IgM型は、つい最近または数年以内に感染した可能性がありますので、IgM型の抗体が陽性の場合は、感染時期を推定するため、より詳しいアビディティ検査を受けることになります。
アビディティ検査で妊娠してからのトキソプラズマ感染が疑われる場合は、母子感染のリスクを下げる治療薬を飲んで、その後の経過を見守ることになります。
日本は衛生環境がしっかりしているので、トキソプラズマ対策にそれほど神経質になりすぎる必要はありませんが、次の3つのことを気を付けましょう。
可能性は低いのですが、生の豚肉や鶏肉、牛肉などにトキソプラズマが寄生していることがあります。食中毒の危険性もあるので、肉類はよく加熱をして食べるようにしましょう。特に、シカやイノシシなどの野生動物の肉を使ったジビエ料理は、妊娠中は控えておくか、食べるのであれば必ずよく加熱してください。また、生肉を切った包丁はよく洗いましょう。
また、レアステーキやローストビーフ、生ハム、サラミなどは日本の衛生事情や流通環境を考えると、まず心配ないのですが、時々「昨日食べたローストビーフがレアだったので心配で受診しました」と来院する妊婦さんがいます。あとで不安になる方も多いので妊娠期間中は避けておくのが無難でしょう。
野良猫のふんにはトキソプラズマの卵が含まれていることがあります。ふんが土に混じっている場合、そこで採れる野菜や果物から感染する可能性があります。野菜や果物は土を落として、よく洗って食べるようにしましょう。
土や砂の中にはトキソプラズマの卵が混じっている可能性があります。卵は1年以上感染力を持ち続けるので注意が必要です。ガーデニングで土を触ったり、お子さんと公園で土遊びをした後は、石鹸で十分に手を洗いましょう。
よく「猫を飼っている人はトキソプラズマ症に注意」といわれています。その理由は、ネコ科の動物だけが、便にトキソプラズマの卵が排出されるためです。そのため、妊娠期間中に新しい猫を飼ったり、外の野良猫に触れることは避けたほうが無難です。
もともと猫をペットとして飼っている方は、室内で飼っていれば過度に心配する必要はありません。外でネズミや鳥などの肉を食べていなければ、トキソプラズマには感染する機会はないと考えていいでしょう。
ただし、室内飼いの猫でも他の寄生虫を持っている可能性があると考えると、猫のトイレ掃除はできるだけ他の家族の方にやってもらったほうがいいでしょう。
飼っている猫がトキソプラズマに感染しているかは、動物病院で調べることもできるので、心配な方は相談してみるのもいいかもしれません。
衛生管理が行き届いた日本では、トキソプラズマ症はそれほど心配のいらない感染症になっています。日々の予防策をしっかりしておきましょう。
竹内 正人(産婦人科医、医学博士)
日本医科大学卒業後、米国ロマリンダ大学(周産期生物学)、日本医科大学大学院(産婦人科学・免疫学)を経て葛飾赤十字産院などに勤務。著書に『マイマタニティダイアリー』など。
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ママとパパはわたしがおなかに来てから、食べるものに気をつけるようになったんだって。「生のお肉を食べて食中毒になったり、トキソプラズマ症に感染したら大変だから、ちゃんと火を通して食べなきゃね」って言ってる。トキソプラズマ症って、どんな病気なの?