妊娠期
妊娠初期
麻疹(はしか)は、麻疹ウイルスに感染することで起こる感染症です。とても感染力が強い病気なので、免疫のない人が感染者の近くにいた場合、90%以上が感染するといわれています。「大丈夫?」と心配なママとパパも多いと思いますが、不安を和らげるには、まずは正しい知識を得ることが大切。産婦人科医・医学博士の竹内正人先生に、麻疹(はしか)について聞きました。
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【保存版】妊婦さんが注意すべき感染症まとめ 妊婦さんが注意すべき感染症麻疹(はしか)は、昔の日本では決して珍しくなかった病気です。毎年流行が続いていて、かつての子どもたちは、自然に麻疹(はしか)に感染することで免疫を獲得していました。私も、子どものころに麻疹(はしか)にかかっています。
1978年から麻疹ワクチンの定期接種が始まったことで、患者数は次第に減っていきました。しかし接種率が不十分だったことや、子どものころにワクチンで獲得した免疫がだんだん弱まってきた人たちがいたため、2000年から2001年にかけて20万人以上、2008年には1万人以上が感染し、全国的に大流行してしまいました。
その後、麻疹(はしか)の大流行を防ぐためにワクチンの定期接種が徹底されました。病院や学校などの努力のおかげで患者数は激減していき、2015年には日本はWHO(世界保健機関)から「麻疹(はしか)の排除が達成された国」と認定されるまでに減少しました。
しかし、以前ほどの大流行ではありませんが、たびたびニュースでは「国内で麻疹患者が発生しました」と報じられています。2019年に765人と感染者のピークをとった後、2020年には10人と急減し、2022年の報告者は6人でした。
麻疹患者がゼロにならない主な理由は、世の中がグローバル化したためです。海外を行き来することが当たり前になり、麻疹(はしか)が流行している海外の国からウイルスが持ち込まれるようになったのです。
麻疹(はしか)は、「麻疹ウイルス」が空気感染・飛沫(ひまつ)感染・接触感染によって人から人にうつる急性ウイルス感染症です。感染力はとても強く、免疫を持っていない人が感染者に接すると、90%以上が発症するといわれています。
免疫を持っていない人が手洗いやマスクだけで感染を防ぐことはできません。マスクをしていても、粒子が口に入り込んで感染する可能性がとても高いからです。
麻疹(はしか)に感染すると、10日くらい経ってからせきや鼻水、38度程度の発熱など、風邪のような症状が起こります。それから2~3日くらい後に、39度以上の高熱が出て全身に赤い発疹があらわれます。肺炎や中耳炎、脳炎などの合併症も起こりやすくなり、患者1000人につき1人の割合で肺炎や脳炎が重症化して死亡するケースもあります。
麻疹(はしか)を発症した人が周りの人に感染させてしまう期間(感染可能期間)は、風邪のような症状(せき・鼻水・発熱など)が起こる1日前から、赤い発疹が体に出現した後の4~5日くらいまでです。とくに感染力が強いのは、発疹が現れる前の期間です。
麻疹(はしか)には残念ながら治療薬はなく、特別な治療法もありません。症状を軽減するための対症療法が行われるのみです。高熱が続くなどの症状は母体にはとてもつらいものですから、医師が母体の負担と赤ちゃんの週数を考えた上で、早産にしたほうがいいと判断する場合があります。
ただ、麻疹(はしか)は昔と比べてとても患者数が減ってきている病気です。私も30年以上医師をしていますが、いまだに妊婦さんで麻疹(はしか)になった患者さんを診たことはありませんし、珍しい症例として症例報告に上がるほどです。麻疹(はしか)の抗体があるかどうか妊婦健診で検査することもほとんどありません。
ニュースを見聞きするたびに不安に感じている妊婦さんも多いかと思いますが、確率としては非常に低いものであることは、ぜひお伝えしておきたいと思います。
妊娠前なら、「ワクチンを打っていない」あるいは「幼少期にワクチンを打っていても免疫が低下している」という可能性を考えて、医師の判断の下でMR(麻疹風疹混合)ワクチンを接種することになります。
ただ、すでに妊娠している場合は、MRワクチンの接種はできません。MRワクチンは「生ワクチン」といって、生きているウイルスの毒性を極力弱めて作ったものなので、体内でおなかの赤ちゃんに悪い影響を及ぼす可能性が否定できないためです。
そのため、今後もし麻疹(はしか)が大流行する時が来たら、なるべくコンサートやショッピングモール、映画館など、人がたくさんいる場所は避けたほうがいいでしょう。そして、パパや両親など同居している家族の中で、「麻疹(はしか)にかかったことがない」「ワクチンを2回摂取したことがない」など感染する可能性が高い人は、MRワクチン(麻疹風疹混合ワクチン)の接種をおすすめします。
とくに医療関係の施設や学校、児童福祉施設に勤務していたり、アジアなど海外に行く機会が多い場合、麻疹(はしか)にかかるリスクは普通の人より高くなりますので、流行時でなくとも注意が必要です。
MRワクチンは、麻疹(はしか)のみならず風疹も予防することができます。風疹のほうは、麻疹(はしか)よりも患者数が多く、かつ妊娠中に感染するとおなかの赤ちゃんに先天的な異常が起こる可能性があるので、ぜひとも接種していただきたいワクチンです。
麻疹(はしか)患者に接触した不安がある場合は、すぐに医療機関に連絡して、どうすればよいか指示をあおいでください。近所の小さい病院よりも、感染症に詳しい先生がいる内科や、ある程度大きな病院の感染症科を受診するほうが、対応がスムーズです。受診する時は、他の人への感染を防ぐために、なるべく公共交通機関を使わず、車などで移動したほうがいいでしょう。
病院では、まずは麻疹(はしか)の抗体があるかどうか検査します。抗体がない場合、接触から5~6日以内なら、発症予防または症状軽減のために「ガンマグロブリン」という薬剤を投与することがあります。ガンマグロブリンは、妊婦さんが投与しても問題ない薬剤です。
万が一、妊娠中に麻疹(はしか)を発症した場合には、子宮が収縮したり、別の病気にかかったりしないように(二次感染防止)、抗菌薬を投与して治療を行うこともあります。
妊娠していない時に比べて、妊娠中は麻疹(はしか)が重症化しやすい傾向があります。ただ、奇形や先天性の障害など、おなかの赤ちゃんへの影響はほとんどないといわれています。
妊娠中は、予防のためのMR(麻疹風疹混合)ワクチンを打つことはできません。同居している家族など身近な人が、妊婦さんにうつさないようにワクチンを打つことが大切です。
過剰に心配しなくても大丈夫。
周囲の人に麻疹の予防接種を受けてもらい、あとは規則正しい健康的な生活を心がけましょう!
竹内 正人(産婦人科医、医学博士)
日本医科大学卒業後、米国ロマリンダ大学(周産期生物学)、日本医科大学大学院(産婦人科学・免疫学)を経て葛飾赤十字産院などに勤務。著書に『マイマタニティダイアリー』など。
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ママ、パパ、「はしか」ってどんな病気なの?
ニュースを見ていたら、どこかで「麻疹(はしか)」っていう病気になった人がいるんだって。ママとパパは心配して「おなかの赤ちゃんのためにも、しばらく外に出ないほうがいいのかな……。せっかく天気がいい日が続いているけど、心配だし……」ってため息をついてる。麻疹(はしか)って、そんなにこわい病気なの?