乳歯入門
2歳半~6歳頃
子どもの歯並びシリーズ第3回は、「叢生(そうせい)・らんぐい」について。歯がでこぼこ、ガタガタになっている歯のことを指し、子どもの歯のトラブルの8割程度を占めています。放置するとどうなるのか、どんな治療が行われるかなど小児歯科医・歯学博士の坂部潤先生に聞きました。
叢生(そうせい)とは、隣り合う歯同士がすき間なく並んでいて、「でこぼこ、ガタガタ」している状態のことです。子どもの歯のトラブルの中では最も多く、全体の約8割を占めています(乳幼児期では1割未満)。
主な原因の一つは、遺伝によるものです。生まれつき歯のサイズが大きかったり、あごが狭いことで起こります。また、乳幼児期に舌をしっかり動かせていない、正しい食べ方をしていない、鼻炎などのアレルギーで口呼吸がくせになっているといった場合も、あごが発達せず、叢生(そうせい)になりやすいといわれています。
叢生(そうせい)の子どもは、歯の並びがでこぼこ・ガタガタしているため歯みがきがしにくく、デンタルフロスを使わないとなかなか汚れが取れません。そのため、むし歯や歯周病になりやすくなります。また、原因があごの狭さである場合、食事をうまく食べられなかったり、発音が不明瞭になることがあります。
叢生(そうせい)は、長期的に見ても問題があります。末永く歯を健康に保つためには、全ての歯で均等にしっかり噛むことが必要です。しかし、歯がでこぼこ・ガタガタになっていると噛み合わせが悪くなり、一部の歯への負担が大きくなって、歳をとるにつれてだんだんその歯が弱っていきます。
乳歯がでこぼこ・ガタガタしていなくても、ぴったりとすき間なく並んでいる状態も注意が必要です。
よく「うちの子は乳歯の間隔がスカスカなのですが大丈夫でしょうか?」という親御さんがいますが、乳幼児期の歯は、むしろ間隔が空いているくらいがちょうどいいのです。
6~8歳で生えかわる永久歯は、乳歯の約1.5倍の大きさなので、乳歯の段階ですき間がなかったり重なり合っている場合、永久歯に生えかわった後ででこぼこがかなり目立ってしまいます。数年先の生えかわりの時期に備えて、今のうちにかかりつけの歯科医に相談しておいたほうがいいでしょう。
叢生(そうせい)は、原因や症状によって、いろいろな治療法があります。歯科医院で口や歯の状況をしっかり調べてもらい、納得のいく治療を受けることが大切です。
ほとんどの場合、永久歯に生えかわる6~8歳以降に治療がスタートします。乳幼児期に治療をしない理由は、まだ永久歯がどの程度の大きさなのか、どのようにあごが成長するのかがわからず、不確実な部分が多いためです。小学校に入るまでは、慌てて治療を開始しなくても大丈夫です。
ただし、治療が遅すぎてもいけません。特に「あごの狭さ」が原因の子どもは、できるだけ小学校低学年のうちに治療を開始することをおすすめします。中学生や高校生になってからではあごの骨が成長してしまっており、歯を抜いて矯正治療を進めるのが一般的な方法になるためです。
低年齢の子どもの叢生(そうせい)治療は、主に「器具を使ってあごを広げる(床矯正)」または「トレーニングで筋機能を直す」の2つが行われます。割合は少ないですが、歯が大きい子どもは抜歯も検討します。
プレート型の器具を口にはめて、ねじの力を使って狭いあごを広げる治療を行います。取り外し式の器具と、接着剤でくっつける固定式の器具の2種類があります。取り外し式の器具のほうが子どもにとっての負担は少ないのですが、つけたり外したりする親の管理が大変というデメリットがあります。
器具を取り付けたら、月に1回くらいのペースで来院し、定期的に様子を見ていきます。
口周りの筋肉を鍛えて、安静時の舌の位置を直したり、口を閉じる練習をします。夜寝る時にシリコン製のマウスピースを口の中に入れて過ごし、口の筋肉のバランスを整えるのが一般的です。
また、ガムを上あごに張り付けて、自分の舌で押しつぶすというトレーニング方法もあります。ボタンに長い糸をつけて、唇の内側にくわえて引っ張るという昔ながらのトレーニングを行う歯科医師もいます。
生まれつき歯が大きいことが原因の子どもの場合は、永久歯が生えそろった小学校の後半頃に、全体的なバランスを見てから歯を抜いて矯正を行います。
床矯正や筋機能トレーニングは、2年程度で終わることがほとんどです。
永久歯が生えそろうのは中学生になってからですので、それまでは継続して様子を見る必要があります。3カ月~半年に1回の定期健診でチェックし、途中で治療が必要になったら再開します。
なお、一連の治療には保険は適応されません。かかる費用は歯科医院によって変動します。
八重歯(やえば)は11歳くらいに生えてくる永久歯で、犬歯(糸切り歯)ともいいます。犬歯は永久歯の中でも最後のほうに生える歯なので、他の歯にスペースを取られていた場合、外側に押し出される形で八重歯になります。
犬歯は歯の中で最も立派な根っこを持っています。私たちは食事の時に固いものをすりつぶす「すり合わせ運動」をしていますが、犬歯はそのガイド役を務める大事な存在なのです。しかし、八重歯として生えた犬歯は正しい位置にないため、そのガイド役を果たすことができません。八重歯をそのままにしていると結果的にすり合わせがうまくいかず、歯のバランスが崩れ、次第に奥歯のほうから弱ってしまうといわれています。歯の健康を守る意味でも、早期に矯正することをおすすめします。
※治療の開始時期の目安や方法は一例を紹介しています。お子さんの状況により、異なる場合がありますので、気になる方はかかりつけの歯科医院でご相談ください。
あごが狭いために歯がでこぼこになっているお子さんの割合は多いです。成長につれて矯正が難しくなりますので、小学校低学年までには治療の方向性を定めておいたほうがいいでしょう。
坂部 潤(小児歯科医、歯学博士)
日本小児歯科学会認定小児歯科専門医。東京・目黒、成城、麻布、代々木上原にある小児歯科専門医院キッズデンタルを開業。継続管理型の小児歯科専門医療を提供している。
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わたしの歯、でこぼこして不ぞろいだから、ママがとっても気になっているみたい。パパは「子どもの歯は生えかわるから、気にしなくても大丈夫だよ」って言っているけど、ママは「今のうちから歯医者さんに診てもらったほうがいいと思う」だって。わたしの歯って、そのままにしていても大丈夫なの?