歯周病
歯周病とは
歯周病とは、歯の周りの歯周組織(歯肉・歯根膜・歯槽骨・セメント質)に炎症が起こっている病気の総称です。炎症が歯肉だけに留まっている状態を「歯肉炎」といい、炎症が歯槽骨や歯根膜にまで広がっている状態を「歯周炎」といいます。歯周炎は以前歯槽膿漏と呼ばれていました。
歯周病の特徴は、silent diseaseと言われるように、痛みがなく静かに進行していくことです。腫れたりして気がついた時には歯を支えている歯槽骨まで吸収して、歯がグラグラしたり、ものが噛めなくなり、最後には歯が抜け落ちてしまいます。歯周病は、多くの成人がかかっている病気ですが、小中学生から見られます。
また近年、歯周病が糖尿病などの生活習慣病と関連していることも明らかになっています。このように、歯周病は口だけでなく、全身の健康の面からも予防が大切といえます。
歯周病の原因
1.プラーク(歯垢)
歯周病の直接の原因はプラークです。プラークは多くの種類の細菌が増殖してかたまりとなったもので、歯につくバイオフィルムとも言われます。特に、歯周病細菌は酸素の少ない場所を好むため、主に歯周ポケットの中に存在し、毒素や酸素を放出して歯周組織を破壊していきます。
2.リスクファクター(危険因子)
歯周病の直接の原因はプラークですが、「口腔内の環境」や「生活習慣」の中には間接的に歯周病を悪化させるリスクファクター(危険因子)が潜んでいます。歯周病が生活習慣病の一つといわれるのはそのためです。
歯周病予防には、適切な歯みがきでプラークを取り除くことが基本です。さらに歯周病のリスクファクターを少なくすることが大切です。
歯周病のリスクファクター
局所的なリスクファクター(口腔内の環境など)
プラークを増殖させたり、歯肉の炎症を悪化させたりする要因がリスクファクターとして考えられます。
歯石
プラークを放置すると、唾液中のカルシウムなどが沈着して歯石になります。歯石表面には細菌が住み、プラークが増殖しやすいため、歯周病をさらに悪化させる要因になります。
歯並び
歯並びが悪いところは歯みがきが不十分になりがちでプラークが増殖して炎症が起こりやすくなります。
不適合な修復物など
歯に合っていない修復物(クラウン)などの周りにはプラークがたまりやすくなります。
口腔習癖
「口呼吸」や「歯ぎしり」など、日常的に癖になっている悪い習慣のことで、歯周病を悪化させたりします。
- 口呼吸
- 口で呼吸する癖がある場合、口の中が乾燥しプラークがつきやすくなります。
また、歯肉の抵抗力が弱まり炎症がおきやすくなります。 - 歯ぎしり
- 歯周組織は歯ぎしりのような横から加わる力にはきわめて弱いため歯周病が悪化します。
全身的なリスクファクター(生活習慣など)
近年、生活習慣が歯周病を引き起こしたり、悪化させたりするリスクファクターであることがわかってきました。歯周病を予防・改善していくには、口腔内環境はもちろん、生活習慣を見直してリスクファクターを減らし、全身の健康状態をととのえていくことが大切です。
喫煙
喫煙は歯周病を悪化させる大きなリスクファクターです。タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させて歯肉の血行不良をひきおこします。さらにタバコには一酸化炭素も含まれていて、歯周組織の酸素欠乏を引き起こします。そのため、歯周組織は栄養不足になり、歯周病細菌に対する抵抗力が低下し歯周病を重症化させます
ストレス
精神的ストレスによって体の抵抗力が弱くなったり、生活習慣(歯みがき、喫煙、食生活など)が変化したりすることで歯周病が悪化しやすい状態になります。
食習慣
甘いもの、やわらかいものを多く食べる習慣は、歯周病の原因であるプラークを増殖させやすくします。また、不規則な食事、栄養の偏りは歯周組織の抵抗力を弱め、全身の健康に悪影響を与えます。
全身の健康への影響
最近の研究で、歯周病およびその原因である歯周病細菌が、心臓病や肺炎などの、全身の疾患と関係があることがわかってきました。歯周病予防や早期の治療は全身の健康のためにも大切です。
糖尿病
糖尿病にかかっている人は歯周病が多いという調査結果が報告されています。このようなことから歯周病は糖尿病の合併症の1つに挙げられています。しかしながら、最近の研究では、徹底した歯周治療で血糖値が改善されることがわかってきました。
このようなことから、糖尿病と歯周病の治療のために、医科と歯科の連携が行われるようになってきました。
呼吸器疾患
嚥下障害(ものを飲み込む時の障害)があると、口の中の細菌が誤って気管に入り、肺炎が引き起こされることがあります。このようにして起きる肺炎を誤嚥性肺炎(嚥下性肺炎)と呼びます。特に、高齢者では物を飲み込む際の反射(嚥下反射)が衰えてくるため、誤嚥性肺炎を引き起こす危険性が高いことがわかっています。
早産や低体重児出産
歯周病にかかっている妊婦では「早産」や「低体重児出産」の危険性が高いことがわかってきています。
心疾患
歯周病にかかっている人では「冠状動脈疾患」などの心臓血管疾患になる危険性が高いことがわかってきています。
脳血管疾患
歯周病にかかっている人では「脳卒中」などの脳血管疾患になる危険性が高いことがわかってきています。
歯周病の進行
歯周病はその進行段階によって大きく2つに分けられます。炎症が歯肉だけにある状態を「歯肉炎」といい、炎症が歯肉から歯槽骨や歯根膜にまで広がった状態を「歯周炎」といいます。「歯周炎」は進行状態により軽度、中度、重度に分類されます。
また、歯周病は痛みなどの症状が少ないため、気づいたときにはかなり進行してしまう場合がありますので注意が必要です。
健康な歯周組織
歯肉の色は薄いピンク色で、引き締まっています。
歯と歯肉の境目に1~2mm程度の溝(歯肉溝)があります。
歯肉炎
歯肉溝にプラークがたまった状態が続くと、歯肉に炎症が起きて腫れるため、歯肉溝が2~3mmとなり、歯肉ポケットが形成されます。
歯周炎(軽度)
歯肉の炎症がひどくなると、歯周病菌が歯周組織に侵入し、歯を支えている歯槽骨や歯根膜が破壊され始めます。
歯と歯肉の境目の溝も3~5mmと深くなり、歯周ポケットという病的な溝になります。深い歯周ポケットの中は歯ブラシで清掃できないので、プラークや歯石がたまってきます。
歯周炎(中等度)
炎症がさらに拡大し、歯槽骨も半分近くまで溶けてしまうため歯はぐらつきはじめます。
歯周ポケットも4~7mmとさらに深くなります。
歯周炎(重度)
歯槽骨が半分以上溶け、歯はぐらぐらになってしまいます。
歯周病の予防方法・対処方法
1.丁寧な歯みがきを心がけましょう
歯周病を予防するには、原因となるプラークをきちんと落とすことが基本です。
歯垢がついている歯と歯肉の境目を意識してみがきましょう
歯間清掃用具を使用して歯と歯の間を清掃しましょう
2.規則正しい食習慣を意識しましょう
- 1.栄養バランスのとれた規則正しい食生活を心がけましょう
- 2.プラークのもとになる糖分の多い食品のとりすぎや、だらだら食いはやめましょう
- 3.歯周組織の抵抗力をつける栄養分が含まれる食品を摂取しましょう
(タンパク質、カルシウム、鉄分、ビタミンA,Cなど) - 4.ゆっくり良く噛んで、楽しみながら食事をとりましょう。
3.禁煙しましょう
タバコは歯周病を悪化させるとともに、治療の効果を妨げます。
健康のためにも禁煙を心がけましょう。
4.ストレスを持ちこさないようにしましょう
運動したりリラックスして音楽を聞いたりし、早めのストレス解消を心がけましょう。
5.定期健診を受けましょう
歯周病のなり始めは痛みも少なく気づきにくいものです。
1年に2回は歯科医院で定期健診・歯石除去を受けましょう。
監修:神奈川歯科大学 特任教授 荒川浩久
関連記事