健康づくりはお口から
歯みがき習慣が根付いた今、口腔保健は新たな目標に向かって動きはじめています。口の中の健康維持が全身の健康維持につながることが分かってきたからです。口腔保健の今とこれからを考えます。
⑮成人男性は意識が低い!?働き盛りこそ口腔ケア
忙しい成人男性の「健口美」は?
「健康な心と身体はお口から!〝健口美〟」
これは、ライオン歯科衛生研究所が行なっているQOL向上活動のコンセプトです。「口腔の健康」「口腔の美しさ」「コミュニケーション」の3つの要素が機能し調和してもたらされるのが「健口美」。この健口美に結びつく5項目について実施した意識調査があります。
それによると、働き盛りの世代は平均より「健口美」の意識が低い、という結果が出ています。働き盛りの男性は特に要注意。なぜなら意識の低さと実際の口腔状態がリンクしているということが分かってきたからです。
厚生労働省の調査によれば、4ミリ以上の歯周ポケットがある人の割合が25歳あたりから急激に増え、40代、50代と増え続けています。働き盛り世代は忙しい上に責任も重く、成人の定期歯科健診の仕組みも不十分。つい口腔ケアを怠りがちのようです。
歯科健診は当人の意思まかせ
小・中学生や高校生は学校歯科保健の中で歯科健診を受けますが、成人世代になるとバラツキが出てきます。社会人に対する歯科検診は職場で受けることが多いのですが、これは法定健診ではなくて、企業や職域に任されています。自治体の場合も基本的には任意参加方式がほとんど。
というわけで自分の判断に任されているために、実際の参加率、受診率はかなり低いのです。成人歯科健診は空白地帯にある、といえるかもしれません。
悪いところ、痛いところが出てきてから歯科医院に行くのでは手遅れです。むし歯でも歯周病でも初期段階では自覚症状があまりありませんから、自己判断は禁物。働き盛りの皆さんは、忙しい時ほど、歯と口の健康を忘れないでください。
⑯歯周病治療に相互効果あり 糖尿病の人はすぐ歯科医院へ
糖尿病改善のために医科と歯科が連携
お口の健康が全身の健康と関係していることは、このホームページでも何度か解説してきました。とくに、世界的に患者数の多い糖尿病と歯周病の相互関係については多くの専門家が着目し、「口腔の健康を通じて糖尿病を改善できないだろうか」と、近年、医科と歯科が連携する動きが起きています。
たとえば日本歯周病学会は、2009(平成21)年6月に「糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン」を制定、5年後には改訂版を発行して、糖尿病への取り組みを強化しました。
一方、日本糖尿病学会も、2013(平成25)年6月に発行した「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン」に糖尿病と歯周病の項目を設け、歯周病のあるⅡ型糖尿病患者に歯周治療を行うと、検査値の指標であるHbA1cが改善する可能性があることを示し、糖尿病患者に対して歯周治療を勧めています。
健康寿命を延ばすためにも歯と口のケアを
医科・歯科連携の試みは、まだまだあります。公益社団法人日本糖尿病協会は、日本歯科医師会と協力して「日本糖尿病協会歯科医師登録制度」を制定。糖尿病・歯周病の患者に歯科医師や医療指導医を紹介するなど、糖尿病・歯周病の予防と治療に努めています。都道府県の医師会や歯科医師会も個別の取り組みを開始。相互に患者を紹介し、糖尿病と歯周病の早期克服に努めています。
企業もまた、具体的な取り組みを展開。サンスターは、2004(平成16)年からハーバード大学医学部付属ジョスリン糖尿病センターと連携した取り組みをスタートさせました。ライオン歯科衛生研究所は、生活習慣病と口腔疾患との関連性の研究を行い、歯科医療関係者への情報提供や教育研修を行っています。
このように、歯科医療の最先端では、口の中だけでなく、全身疾患との関連を視野に入れた新しい試みが始まっています。口の中を健康に保つことは、全身の健康にとって良い効果をもたらすと考えられます。健康寿命を延ばすためには、歯と口のケアが欠かせないことを忘れないでください。