健康づくりはお口から

歯みがき習慣が根付いた今、口腔保健は新たな目標に向かって動きはじめています。口の中の健康維持が全身の健康維持につながることが分かってきたからです。口腔保健の今とこれからを考えます。

⑬よくかめば脳が活発化?認知症リスクを下げる可能性

認知症リスクを減らして元気に長生き!

口腔機能と認知症には関係がある?

「かむ」「飲み込む」という機能は、人間にとってとても大切なものです。栄養摂取はもちろんのこと、運動機能にも深く関係していることがわかっています。
2012(平成24)年ライオン歯科衛生研究所と東京都健康長寿医療センター研究所は、ある共同研究を実施しました。沖縄の宮古島で、65歳以上の高齢者に5カ月間、「口腔機能向上プログラム」に参加してもらったのです。地元の歯科衛生士と保健師の力を借りて、参加した高齢者にさまざまな口腔機能向上トレーニングをしてもらいました。
その結果、当然ながら「かむ力」「飲み込む力」「口全体の清潔度」が高まりましたが、それだけではありませんでした。「遂行機能」「注意機能」などが向上し、認知機能の低下の抑制につながる可能性が示されたのです。

ネズミを使った実験が示す「かむ力」の大切さ

もう一つ、かむ力と認知症の関係を示唆する実験を紹介しましょう。広島大学名誉教授の丹根一夫氏は、ネズミを使って、さまざまな実験を行いました。
アルツハイマー病は、脳の海馬周辺たんぱく質の一種であるにアミロイドβが沈着することで発症するといわれています。そこで、普通に歯のあるネズミと先天的に歯が生えないネズミを使って、海馬のアミロイドβ沈着の状態を比較しました。すると、歯のあるネズミにはアミロイドβが認められなかったのに、歯のないネズミには、アミロイドβの沈着が認められました。
次に、かまずに食べられる粉末のエサと固形のエサを与えたネズミを使って、記憶・学習能力に関係する海馬周辺の細胞数を比較したところ、粉末のエサを与えていたネズミは固形のエサを与えていたネズミより、海馬の垂体細胞の数が少なくなっていました。
さらに、同様のエサで育てたネズミを水槽に入れ、「モーリスの水迷路」と呼ばれる実験を行いました。ネズミが水槽の縁までたどり着く時間を比較したところ、粉末エサを食べたネズミの方が、明らかに長い時間がかかったのです。
この実験から、しっかりかめないと、記憶や空間認知能力などに深く関係する海馬の活動が不活発になる恐れがあることがわかりました。認知症の原因はさまざまですが、よくかむことが認知症のリスクを下げる可能性があることを示唆しているのです。

⑭QOLは歯とともに むし歯がなくても年に2回は歯の健診を

年に2回はプロケアで口の中の健康管理
年に2回はプロケアで口の中の健康管理

プロケアとセルフケアを両輪に

あなたは歯みがきに自信がありますか? ライオンは2014(平成26)年、「歯みがき意識と口腔内実態の臨床研究」を行いました。事前アンケートで「自分の歯みがきに自信がある」と答えた人の8割は、きちんとみがけていませんでした。その理由は、「自己流」だったから。口の中の健康を保つためには、毎日の歯みがきなどのセルフケアだけでは不十分なことがわかります。
歯科医院で定期的にチェックを受け、ケアしてもらうことをプロフェッショナルケア(プロケア)といいます。歯垢を徹底的に除去し、歯の表面の菌の塊「バイオフィルム」をしっかりはがすためには、やはり専門的な道具と技術があるプロに任せるしかありません。
最近は予防歯科が重視されるようになってきています。予防歯科とは、むし歯や歯周病などの治療ではなく、そうならないための予防を大切にする考え方です。自分で行うセルフケアと専門家が行うプロケアを両方とも習慣にすることが、予防歯科の基本です。

メインテナンスは年に2回

歯科先進国といわれる北欧や米国では、80%の人が予防管理(メインテナンス)のために診療所に通っているといわれています。日本では、まだそこまで普及してはいませんが、予防歯科に力を入れる歯科医院も増えてきています。
口の中の健康は、全身の健康につながっています。健康に生きるためには、予防歯科の考え方を持った「かかりつけ歯科医院」を持つことが必要です。治療だけでなく、予防管理にまで対応し、適切なアドバイスをしてくれる歯科医院を選びましょう。そして、年に2回はプロケアを受けることを習慣にしてください。