健康づくりはお口から

歯みがき習慣が根付いた今、口腔保健は新たな目標に向かって動きはじめています。口の中の健康維持が全身の健康維持につながることが分かってきたからです。口腔保健の今とこれからを考えます。

⑤心筋梗塞、脳梗塞も歯周病が原因?

歯周病はどこまで関わっている?

歯周病が、そんな病気にまで関わっているのか。
多くの人が驚き、不思議に思うような研究や報告が、世界レベルで発表されるようになりました。
たとえば、心・血管系の病気。心臓の動脈が詰まったり狭くなったりすると、心筋梗塞や狭心症になり、脳の動脈が詰まったり狭くなったりすると、脳梗塞を引き起こします。血管が膨らんで破れてしまえば、命に関わる深刻な事態を招きます。
動脈硬化を起こした血管の中のプラーク(動脈硬化の病巣)を調べると、歯周病菌が見つかるというケースが、アメリカでも日本でも相次いで報告されました。また、アテローム性動脈硬化(コレステロールなどの脂質が動脈内膜にかゆ状に沈着したもの)の部分から歯周病菌が検出されているといいます。

はっきりしたことがわかるのはいつ?

ただし、歯周病菌の存在がどのように動脈硬化症の発症、進展につながっているのかは、まだ十分にわかってはいません。歯周病の治療をすると心筋梗塞や脳梗塞が治る、改善されるとまではいえず、歯周病と心・血管系の病気の関わりは、あくまで疫学的な段階にとどまっています。そのため、アメリカ心臓学界やアメリカ歯周病学会では、「歯周病が心疾患を引き起こすとは証明されていないし、歯みがきが心疾患を予防する効果も証明されていない」という声明をわざわざ出しています。
このように、歯周病と心・血管系の病気との直接的な関係性は証明されていないものの、関連する報告が数多くあるのは事実です。国内では歯周病が心筋梗塞などのリスクを高めるという認識が、専門家の間ではほぼ共通の見方になりつつあるほどです。
今後のさらなる解明に期待したいところです。

⑥歯周病と肺炎のコワイ関係

死因第3位の肺炎と結びつく歯周病?

日本人の死因で上位3つの病気といえば、長年にわたって、がん、心疾患、脳血管疾患でした。ところが、厚生労働省の「人口動態統計」によると、2011(平成23)年からは肺炎が第3位に急浮上。以来、この状態が続いています。
肺炎が増えている最大の理由は、高齢者の増加です。肺炎が原因で亡くなる人のうち、65歳以上の高齢者が圧倒的多数。今後、超高齢化社会が進む中では、肺炎による死亡率がますます高まるのは間違いありません。

誤嚥性肺炎と歯周病菌の関係

高齢者の肺炎の多くは、誤嚥性肺炎だといわれています。誤嚥とは、口の中の唾液や食べ物、飲み物、痰などが食道ではなく気管に入り込んでしまうこと。誤嚥で肺に入り込んだ細菌によって引き起こされるのが誤嚥性肺炎です。高齢者に起こりやすいその原因菌の中には、歯周病菌も数多く検出されています。歯周病と肺炎は、密接につながっているのです。
いうまでもなく、気管は吸い込んだ空気の通り道。もし、そこに食べ物などが侵入しても、喉の奥の気道と食道の分岐点のところにはフタがあり、このフタが閉まることで唾液や食べ物などが気管に侵入するのを防ぎます。
ところが、病気や高齢化によって、いわゆる飲み込みセンサーのコントロール能力が低下したり、舌の筋力低下でフタを閉める機能が衰えたりすると、誤嚥を引き起こすのです。普通、気管に食べ物などが入ろうとすれば、咳によって吐き出しますが、咳による反射が弱まると、それができなくなり裏、気管に入り込んでしまいます。ですから、「最近、むせることが増えた」などという場合は、要注意です。