健康づくりはお口から
歯みがき習慣が根付いた今、口腔保健は新たな目標に向かって動きはじめています。口の中の健康維持が全身の健康維持につながることが分かってきたからです。口腔保健の今とこれからを考えます。
③定期的に歯科医院でチェックしよう
歯周病は糖尿病にとって6番目の合併症
一番最近、歯科医院に行ったのはいつですか? すぐに思い出せない人は要注意。特に糖尿病の心配のある人は、歯周病になりやすい、あるいは進行しやすくなる、といいますから厳重注意です。
厚生労働省の調査によると、日本には、糖尿病あるいは糖尿病予備群の人が約2000万人もいます。そのうちどれだけの人が、意識的に歯科医院に行っているでしょう?
糖尿病の怖さは、なんといっても合併症にあります。糖尿病の期間が長くなればなるほど、さまざまな合併症が起きやすく、網膜症、腎症、神経障害が三大合併症と呼ばれています。そして、大血管障害(動脈硬化)、足病変(壊疽)に次ぐ6番目の合併症が歯周病、ということは、今では広く認められています。
歯周病の人は糖尿病が悪化しやすくなり、糖尿病の人も歯周病にかかりやすくなる。つまり、この2つは相互関係にあることがわかってきています。どちらも初期にはあまり自覚症状がなく、生活に支障もないので、重症化するまで放置されやすいという共通点があり、怖い病気だといえるでしょう。
歯周病が糖尿病に影響するメカニズム
では、歯周病と糖尿病は、どう関係しているのでしょう。カギは重度の歯周病の人の血中に増加する炎症性サイトカインです。これが大きく関わって、血糖値を下げるインスリンの働きを妨げ、ブドウ糖の取り込みを阻害することで血糖値が上昇する、と考えられているのです。
サイトカインとは細胞が産出する細胞間情報伝達のためのタンパク質の一種で、いくつかの種類があります。炎症が続いて歯周病が悪化し、血中のサイトカイン量が増えると、肝臓や筋肉の細胞へのインスリンの働きを邪魔して、糖尿病を悪化させるというわけです。
このメカニズムを裏返せば、歯周病の治療、ケアにより、糖尿病に好影響を与えることは十分考えられます。とくにII型糖尿病にかかっている歯周病患者に歯周病の治療をすると、血糖値が改善して糖尿病が快方に向かうという報告が多数あります。つまり、歯周病の治療とケアを続けることによって、糖尿病の悪化を防ぐ可能性が高まると考えられるのです。ですから、ぜひ歯科医院の定期的チェックとケアを忘れないでください。
④歯周病の人は、メタボになるリスクが高い
歯と口の健康は肥満防止になる?
糖尿病と肥満の関係はよく知られています。とすると、歯周病と糖尿病の結びつきから、歯周病と肥満の関係も考えられます。
実は、肥満と判定された人は、歯周病にかかっている割合が高く、歯周病が肥満の原因のひとつである可能性が高いことが指摘されるようになっています。
歯周病の専門家の間では、「食生活において歯周病予防を心がけると、肥満防止につながる」といわれています。ポイントは、規則正しい食事をして間食を減らすことと、よくかんで食べること。しっかりかむと唾液がよく出て、口の中をきれいにし、歯周病を防ぎます。よくかんで食べると満腹感も得られ、食べ過ぎの抑制につながります。つまり、歯と口の健康は肥満防止にも密接に関係していることが明らかになっているのです。
近年は「メタボ」という言葉が急速に広まってきました。これはメタボリックシンドロームの略で、「内臓脂肪症候群」とも呼ばれ、内臓脂肪型肥満をベースに、高血圧、高血糖、脂質異常症のうち2つ以上を併せ持っている状態を指します。つまり、放っておけば動脈硬化を進行させてしまいます。
メタボリックシンドロームの予備軍は40歳以上の成人男性の2人に1人。女性の場合は5人に1人といわれています。今やメタボは国民病とも呼べるほど蔓延しているといえるでしょう。
歯周病とメタボの関係がわかってきた
メタボと歯周病の関連の研究の中でも、注目される報告のひとつが、日本大学歯学部衛生学講座(主任教授は歯学部長の前野正夫氏)とライオン歯科衛生研究所の研究員が共同で行った疫学調査研究です。ポイントになったのは、歯周病にかかっている人は4年後にメタボリックシンドロームになるリスクが高いと、具体的に示したことです。
調査対象は国内のメタボリックシンドロームでない人で、20~56歳までの男女合わせて1023人。その人たちの4年後の健診結果を追跡調査し、歯周病の有無とメタボリックシンドローム発症の関連性について解析したのです。これはメカニズムまで十分に解明したものではありませんが、歯周病の予防がメタボリックシンドロームの予防につながる、と独自の手法で解明したのは、大きな成果といえるでしょう。