健康づくりはお口から

歯みがき習慣が根付いた今、口腔保健は新たな目標に向かって動きはじめています。口の中の健康維持が全身の健康維持につながることが分かってきたからです。口腔保健の今とこれからを考えます。

①歯周病の本当のコワさを知っていますか?

脳血管障害 心臓病・動脈硬化 肺炎 早産・胎児の低発育(女性のみ) メタボリックシンドローム 骨粗鬆症 糖尿病
口の中のトラブルが全身疾患の原因になることがわかってきた

歯周病は静かに進行する

大人が歯を失う原因のトップは、歯周病です。でも、「歯周病とはどんな病気か」とあらためて聞かれると、答えられない人が多いのではないでしょうか。
歯周病とは、歯ぐきに炎症が起きる病気の総称です。歯ぐきをもう少し細かく見ると、表面を覆う歯肉、その奥の歯根膜、さらに奥の歯槽骨、セメント質で構成されています。炎症が表面の歯肉だけに限られている場合は「歯肉炎」、歯槽骨などにまで広がってしまうと「歯周炎」と呼ばれます。
かつては「歯槽膿漏」という言葉がよく使われていましたが、これは歯周病でも症状が重くなった状態を指します。血や膿が出る、口臭が発生する、歯がグラグラするなどの症状が現れて、放っておけば歯が抜け落ちてしまいます。
でも、歯周病が軽視されやすいのも事実です。なぜなら、初期の歯肉炎の段階では、痛みもなく、ほとんど自覚症状がないまま静かに進行するからです。気がついた時にはかなり悪化しているケースが多いので、歯周病は「静かな病気」(サイレント・ディジーズ)ともよばれています。

歯周病は全身の病気と関係がある

こうした特性も影響してか、驚くべきデータがあります。厚生労働省が定期的に発表している近年の「歯科疾患実態調査」によれば、35歳以上の大人の約8割が歯周病を抱えています。
歯周病のコワさは、歯を失うことだけではありません。口は生きていく上で欠かせない食物の入り口であると同時に、細菌の入り口でもあります。歯周病を放置しておくと、知らぬ間にさまざまな病気の原因になることが、国内外の研究で明らかになってきたのです。糖尿病をはじめ、脳血管障害、心臓病・動脈硬化、肺炎、メタボリック症候群……。歯周病は全身の病気と関係している。歯周病の本当のコワさはその点にあるのです。次回から、そうした病気と歯周病の関係について、みていきましょう。

②歯周病が悪化すると糖尿病も悪化する

歯周病と糖尿病の関係 歯周病(悪化)→インスリンの働きを阻害→血糖値のコントロール機能が低下→糖尿病(悪化)→免疫機能が弱まり歯周病菌に感染しやすくなる→歯周病(悪化)
歯周病と糖尿病の関係

歯周病と糖尿病、何の関係があるの?

歯周病と糖尿病。共通点といえば、どちらも多くの人を悩ませている病気ということくらいで、何の関係もなさそうに思えます。
ところが、この2つの病気には深い関係があることがわかってきたのです。それがもっとも早く報告されたのは1990年頃。アメリカの先住民ピマ・インディアンを対象とした大規模な調査・研究によるものでした。報告書によれば、糖尿病の人はそうでない人に比べて、歯周病の発症率が2.6倍も高かったのです。
その後も歯周病と糖尿病のつながりを示す研究成果が世界各地で発表され、今では歯周病が糖尿病を悪化させる要因のひとつである可能性が、極めて高いと考えられています。

歯周病がインスリンの邪魔をする

糖尿病は血糖値の高い状態が続いた結果、全身のさまざまな器官に異常が現れる病気です。Ⅰ型とⅡ型の2種類があり、日本の成人糖尿病患者の9割以上はⅡ型糖尿病といわれています。これは、すい臓がつくるインスリンの量が少ないか、インスリンの働きが悪い、または両方の原因が混じって発症します。
では、なぜ歯周病と糖尿病が結びつくのでしょうか。カギになるのは、ひどい歯周病にかかった人の血中に増加する「炎症性サイトカイン」という物質です。歯肉の炎症が続いて歯周病が悪化し、血中のサイトカイン量が増えると、血糖値を下げようとするインスリンの働きを邪魔し、糖尿病を悪化させてしまうと考えられています。(詳しくは『歯みがき100年物語』をご覧ください)
裏を返せば、歯周病を治療することが糖尿病によい影響を与える可能性も考えられます。もちろん、歯周病を治せば糖尿病も治るというわけではありませんが、歯周病の治療とケアを怠らなければ糖尿病の悪化を防げるかもしれません。糖尿病に悩んでいる方は、1度、歯周病をチェックしてみてはいかがですか。