こうして歯みがきは身近になった
人々の口腔衛生意識を高め、歯みがきの習慣化を促すうえで大きな役割を果たしたのは企業が展開した宣伝、広報活動です。その活動は、強い使命感と企業文化に裏づけられたものでした。
⑬歯みがき界のライバル ライオンとペンギンの誕生秘話
丈夫な歯牙を持つライオンを商品名に
ライオン歯磨のライオンとサンスターのペンギンは、歯みがき界の二代動物キャラクターとして知られています。なぜ、ライオンとペンギンなのか。その由来を探ってみましょう。
ライオンの前身である小林商店が「獅子印ライオン歯磨」を世に送り出したのは1896(明治29)年のこと。その当時、「象印歯磨」や「鹿印煉歯磨」など、動物の名前がついた歯みがき剤が既に出回り、人気を集めていました。それにあやかって、新商品には動物の名をつけようということになり、選ばれたのが百獣の王ライオンでした。ライオンが丈夫な歯牙を持っていることも、歯みがき剤の名前にぴったりだったのです。
小林商店はその後、ライオン歯磨株式会社、ライオン株式会社と名を変えました。シンボルが社名にまでなったというわけです。
清潔感があってユーモラスなペンギンが登場
百獣の王ライオンの登場からおよそ60年後、今度は海の人気者ペンギンがサンスター歯磨のキャラクターとして登場しました。今のように動物園や水族館で本物のペンギンが見られる時代ではありませんでしたが、捕鯨船団などが持ち帰った写真や動画から、ペンギンには、南極に棲む清潔でユーモラスな生きものというイメージがありました。それに、ペンギンなら、新聞の紙面でも白と黒で印象的に表現できます。こうして選ばれたペンギンのキャラクターは、消費者の間に浸透し、長く親しまれることになりました。
⑭しおりに塗り絵、カレンダーも 楽しい歯みがき宣伝ツール
遊びながら子どもたちに歯みがき習慣を
ライオンは創業当時から、口腔衛生についての知識を広めるためにさまざまな活動を行い、そのためのツールとして、多種多様な印刷物が作られました。口腔衛生活動のための貸し出し用ポスター、学校に寄贈した歯の衛生カレンダー、小学校の先生に向けた小冊子、歯科医院向けの絵本、母子歯科衛生用のパンフレット……。専門家向け、学校の先生向け、お母さん向けなど、多様な印刷物を活用した口腔衛生普及活動は、企業による文化活動と見なすことができるでしょう。
その一方で、子ども向けの楽しい印刷物も数多く作られました。これらは主に歯みがき剤の宣伝ツールとして使われたものですが、遊びながら歯みがき習慣が身につくように工夫が凝らされていて、今見ても楽しいものがたくさんあります。
ライオン資料室に残る古い印刷物の中から、面白いものをいくつか、写真とともに紹介しましょう。
アイデアいっぱい 昔の宣伝ツール
①は昭和10年代中頃のチューブ入りライオン歯磨のしおり。歯をみがいている子どもたちが描かれています。こんな身近なもので、歯みがき習慣の大切さをさりげなく伝えたのです。
②は、奥歯の形をした面白い印刷物。笑顔の少女と泣き顔の少女、2枚の型紙が、両目の間のハトメで留められていて、回転盤を回転させると、少女の表情が変わります。遊びながらむし歯予防の大切さを伝えるユニークなアイデアですね。
③「ぬりえ募集」を兼ねた「はみがきかーど」。内側に印刷された絵に色を塗って応募(幼稚園に提出)すると、ごほうびがもらえました。三つ折りの「はみがきカード」に付いている「はみがきカレンダー」は、歯みがきをした日に色を塗るというもの。両親向けに、歯のみがき方も紹介しています。