こうして歯みがきは身近になった

人々の口腔衛生意識を高め、歯みがきの習慣化を促すうえで大きな役割を果たしたのは企業が展開した宣伝、広報活動です。その活動は、強い使命感と企業文化に裏づけられたものでした。

⑮巨人とも対戦した!史上最弱の球団「ライオン軍」物語

社内報に掲載された「ライオン軍改称披露大野球戦」のポスター(1937年)
社内報に掲載された「ライオン軍改称披露大野球戦」のポスター(1937年)

負け続き弱小球団のスポンサーに

日本のプロ野球団はいつできたのか、ご存じですか。1934(昭和9)年、東京巨人軍が誕生、その翌々年には大阪タイガース、阪急、名古屋金鯱、名古屋、大東京、東京セネターズと7球団が揃って、日本職業野球連盟が設立されました。
その中で、公式戦で負け続けていたのが「大東京」。ライオンの前身である小林商店は、この弱小球団とスポンサー契約を結びます。
契約条件は次のようなものでした。
①チーム名はライオン。ユニフォームにライオンのマークをつける
②当時は破格の800円を毎月出資する
③オフには同社が指定する地域を巡回する(費用は同社負担)
④勝ち負けは問わず、球団運営も一任する
これは球団側が驚くほどの好条件でした。小林商店としては球団とタイアップすることで、思う存分に販売促進・広告宣伝活動ができると考えたのです。ここに「ライオン軍」が誕生しました。

弱くても「動く広告」として大奮闘

公式戦が終わりオフシーズンになると、各地で「ライオン軍」の巡業試合が始まりました。試合前から地元新聞社が連日特集記事や広告を掲載し、音楽隊を先頭に大きなのぼりを掲げた宣伝隊が街に繰り出します。球場ではスコアボードの脇にライオン旗が翻り、スタンドの上にはライオン歯磨の旗がズラリと並びます。応援歌が流れるグラウンドでは、愛用者招待で集まった観客たちが「ライオン!」と連呼しながら応援しました。
でも、公式戦では相変わらずの低迷ぶり。巡業試合も計42回中、16勝25敗1引き分けと成績はふるいませんでしたが、ライオン軍はさながら「動く広告」として奮闘、大勢の人々の心に「ライオン」の文字をしっかり刻みつけたのです。1937(昭和12)年から日米開戦までの数年間のことでした。
1941(昭和16)年には敵性語として「ライオン」の名称が使えなくなり、ライオン軍は姿を消しました。けれども同社の取り組みは戦後のプロ野球運営の礎となったといわれています。

⑯データから見える 最近オーラルケア事情

(いずれもライオン社内資料より/2015年)

多様化したオーラルケア製品

今、どんなオーラルケア製品を使っていますか。歯ブラシと歯みがき剤だけでなく、自分の口の中の状態に合わせて、さまざまな製品を使っているのではないでしょうか。
オーラルケア製品とは、歯みがき剤、歯ブラシ、電動歯ブラシ、口中清涼剤、洗口液、歯間清掃用具、歯槽膿漏関連製品、義歯洗浄剤、義歯安定剤の9項目をいいます。
この9項目の市場構成比を見ると、歯みがき剤と歯ブラシの2つを合わせて全体の6割に達していますが、洗口液や歯間清掃具も市場の一画を占めていて、消費者のオーラルケアへの関心の高さがうかがえます。

歯周病対応製品が伸びている

さて、2大オーラルケア製品である歯ブラシと歯みがき剤の市場動向を見てみましょう。
メーカー各社は、これまでにさまざまな効用を持つ歯みがき剤を開発してきました。その成果で、現在市販されている歯みがき剤の9割以上が、薬事法上、予防効果を訴求できる「薬用歯みがき(医薬部外品)」となっています。
フッ素配合の歯みがき剤が普及し、むし歯予防への取り組みが一定の成果を得た今、注目されているのは、歯周病の予防に効果的な薬用成分を含む歯みがき剤です。中高年を中心に歯周病罹患者が増えていることがその理由です。
実際に、2015(平成27)年の市販歯みがき剤のうち、46%が歯周病予防効果を訴求した商品で、2位のエチケット、3位のむし歯を大きく離しています。同様に、市販歯ブラシも31%が、歯周病予防を訴求した商品です。このように、市場動向から、消費者のオーラルケア事情が見えてくるのです。